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エンジェル投資とは?
エンジェル投資という言葉くらいは聞いたことがある人も多いかもしれません。
今回は、このエンジェル投資の実態を確かめ、果たして儲かるのか儲からないのか見ていきますが、結論から言います。
一般人は絶対に手を出すべきではありません。
日本ではまだまだ金融リテラシーが低いのが実情ですが、少しづつ投資に対して認知が広がってきていると思います。
そんな中、クラウドファンディングやスタートアップなどといった投資用語もちょこちょこ聞こえるようになりました。*1*2
エンジェル投資が、通常の株式投資と大きく異なる点は一体何でしょうか。
株式投資もそれなりにリスクのある投資ではありますが、エンジェル投資はその比ではありません。
より大きなリスクを掛けて、より大きなリターンを狙う。
そんな超ハイリスクハイリターンな投資手法がエンジェル投資です。
通常の株式投資は、既に上場している企業に対して、証券会社を通じて株券を購入します。
保有して配当金をもらったり、売却して含み益を稼いだりといったことで儲けを狙います。
一方エンジェル投資は、まだ上場していない企業に投資します。
もしその会社が上場(IPO)したり、大企業なんかに買収(M&A)されたりすると、多額のリターンが期待できます。
仮に100万円を未上場の会社に投資していたとしましょう。
その会社がTwitterやFacebookのように爆発的に世に普及して上場する(あるいは買収される)ことになったとしましょう。
もしかすると株価が購入時の1000倍なんてことになるかもしれません。
投資した100万円が10億円に!? なんとも夢のある話ですね。
お金は無いけど夢がある!お金は無いけどアイデアがある!お金はないけどスキルがある!お金はないけど今すぐ会社を立ち上げたい!といった起業家はたくさんいます。
だけど普通は、誰もいきなりお金を投資してくれません。
本当に成功するの? 事業計画は? 実績は? すごく不安だからです。
そんな起業家達の前に舞い降りて、返済不要のお金を注入して救うような存在であるからこそ、まるで『天使(エンジェル)のような投資家』と呼ばれているわけです。
もちろん慈善事業でお金を寄付しているわけではなく、その企業を応援し、成功した暁には、多額のリターンをもらうことが目的です。
そして大きな夢を持つ起業家が良いサービスを世に生み出し、社会全体の生活を今よりも豊かにしてくれるかもしれません。
そういう意味では、起業家をお金の面でバックアップするエンジェル投資家の存在、社会的意義は高いと思います。
社会的意義も高く、若き経営者と切磋琢磨して事業を成功に導き、何億円というお金も手に入れる。
そして、タワーマンションの最上階で仲間と乾杯しながら、次はどんな事業に投資しようかな… なんて
なかなかシャレオツっぽい仕事ですよね。
エンジェル投資のリスク
さて、ここからが本題でエンジェル投資のリスクについても見ていきましょう。
まず投資した企業が倒産して、投資金まるまる消滅する可能性があります。
次に投資した企業がいつまでもゴールできずに、投資金がずっと拘束される可能性があります。
この可能性はどちらも高いです。なかなかデータが無いのですが8~9割型そうなるのではないでしょうか?
未上場株式なので上場している企業の株式のように、好きな時には売却できません。
一度投資したら、基本的に最後まで運命を共にすることになります。
まぁ、最悪投資した金がゼロになってもいいや、その覚悟さえあれば大丈夫でしょ?
と思ったあなたはまだ少し甘いです。
これは金額が固定されたギャンブルではないんです。あくまで運命共同体なんです。
投資している企業が収益化出来る前に、資金が尽きる可能性があります。
可能性というか、高確率で尽きます。
だってよく考えてみてください。
お金がないから、売上が少ないから、資金を募集しているんです。
銀行や政府の金融機関、家族や親友、民間企業やベンチャーキャピタルなど、もう誰も資金を出してくれない状態です。
でもこのままじゃ資金が枯渇してヤバイから素性もよくわからない個人投資家に資金を募っているんです。
経営に口出されたり、いちいち状況報告しなきゃいけないけど、お金を恵んでくれるなら背に腹は代えられない。ってことで資金を募っています。
もし経営が順風満帆ならそもそも運転資金も不要かもしれないし、むしろ誰もがみな出資をしたがります。(投資家も稼げる投資先を血眼になって探していますので)
だけど事業立ち上げの初期段階なので、なにしろ経営が不安定です。
運転資金が枯渇するなんてことは、当然といえば当然の帰結です。
そしたらどうするか。もちろんまた資金の募集を行うしかありません。
当然、最初に資金を提供したあなたのところに一番最初に依頼が来ますよ。
なぜなら、資金を提供しないと今まで投資した金額がパーになるから、他の誰よりもあなたが資金を出してくれる可能性が高いことを知っているからです。
もちろん断っても構いません。ただしそれは今までの投資金を諦めるという決断になるかもしれません。
また経営自体は順調で、売上や顧客もどんどん増えてます!というイケイケ状態でも、あるいは順調であるからこそさらなる投資(広告や人材等)を行い資金を募集することも多いです。
このイケイケ時の追加投資に乗る乗らないも自由ですが、乗ったら乗ったで株単価は当然高くなっており前回より多額の資金が必要になります。
もし乗らなければ、自分の株保有割合が希釈化されて成功した時のリターンが下がります。(半減とか)
いや、それでもリスクをとって、次なるグーグルやアップルに投資したい!
世の為、人の為、そして資産王に俺はなる!!という貴方は立派です。
エンジェル投資のリターン
そんな多大なリスクをとって、リターンは一体どれくらいあるのでしょうか。
個人投資家であれば、1件あたりの投資金額は数百万~数千万円です。
30社投資して、3~5社がEXITしてくれれば上々じゃないでしょうか。
一体それでどれくらいのリターンが期待出来るのでしょうか。
出来れば数字のデータを追いたいところですが、これがなかなかわかりません。
日本でのM&A市場は、2019年でおおよそ約4000件程度、金額にして20兆円程度です。
1件平均にして約50億円。そして毎年増加傾向にあります。
経済が成長していない中で、大企業が収益を伸ばすにはもうM&Aしかないって感じなのでこれは今後も伸びていくでしょう。
ともあれ、これは日本企業全体(日本→外国企業の買収、外国→日本企業からの買収含む)の話です。
そこでスタートアップ企業の関する貴重なM&AやIPOデータを見てみると、
■スタートアップ企業の資金調達金額の推移 (entrepedia)
2013年 840億円 (1215社)
2014年 1424億円 (1429社)
2015年 1878憶円 (1677社)
2016年 2315憶円 (1720社)
2017年 3271億円 (1800社)
2018年 4211憶円 (1760社)
上記のようにスタートアップ企業に投資される金額も2013年以降から増加傾向にあります。
これは日本でもアベノミクスの株高効果でちょっとした投資ブームや余裕資金が増え、VCが活性化、税制優遇によりエンジェル投資も普及、またクラウドファンディングのプラットフォームも増加したこと等が考えられます。
■スタートアップ企業の買収(M&A)規模 (レコフ)
2013年 80億円 (12社)
2014年 150億円 (10社)
2015年 200憶円 (11社)
2016年 100憶円 (20社)
2017年 310億円 (46社)
2018年 290憶円 (50社)
■IPO全体とスタートアップIPO (deloitte.com / entrepedia)
2016年 全体83社 スタートアップ36社
2017年 全体89社 スタートアップ40社
2018年 全体90社 スタートアップ46社
IPOの1社当たりの規模は50億円以下が80%程度。
ただし初値の時価総額は、50%程度が100億円以上となっています。
つまり有望なIPOの公募に当たれば、確実に何十万円かは儲けることが出来るでしょう。
まあここではIPO応募の宝くじ抽選の話は一旦置いておきましょう。
2018年度ベースでみた場合、1760社のスタートアップ資金調達会社に対して、M&Aが50社、IPOが46社となっています。
もちろん資金調達時とEXIT成功時のタイムラグがあるので、M&AやIPOを果たした会社と資金調達会社とは別の企業である可能性は高いです。
ですが、マクロ的な目安にはなると思います。
それからするとEXIT成功率は5.5%ってところでしょうか。
IPOは審査が厳しくこの先も増加しにくいのに対して、日本でもM&A件数はアメリカ市場のようにこの先も増えていくと考えられます。
ただ1社当たりの額はIPOが数十億円という規模に対してM&Aは5億円程度となっています。またM&Aの1社当たりの買収金額規模は低下傾向にあります。
しかしこれは資金調達した企業1760社を分母としていますが、実際のスタートアップ企業は12000社ほどあります。
もしかするとEXITに成功している企業は、資金を募集した1760社の中にない可能性だってあります。
エンジェル投資家の成功率でいうと、ググればおおよそ傾向が見えてきますが、大体20~50社投資している人で1~6社となっています。
これを見ると成功率は10%程度くらいに思えてしまいます。
もちろん10%成功率という数字も、以下の条件付きです。
・そもそも最もEXIT成功しているランキング上位の人達である
・起業経験もあり、インサイダーとして経営に携わっているプロの人達でる
・MBOや微妙なM&Aも成功件数に含めている
なので統計的な5.5%のEXIT率というのは、むしろこれでも高いくらいです。
そうです。そもそも、M&AやIPOを達成するような優秀なスタートアップ企業に一般人が投資するチャンスが与えられるか? も大きな問題です。
おそらく与えられません。そんなおいしい投資先がハゲタカ投資家やVC等を飛び越えて一般人の元に届くのは難しいとは思いませんか?
さらに有望なスタートアップには無限に資金が集まると言われています。
そんな勝ち組のスタートアップ企業にいる意識の高い経営者が、なぜ一般のおじさんに投資を頼むのでしょうか。
当然のことながら、有名な経営コンサルタント、起業成功経験者のお友達、投資してもらうというだけで話題になるようなインフルエンサーに優先的にお願いするはずです。
ですので一般人がクラウドファンディングなどでエンジェル投資する機会が与えられる企業だと、EXIT成功率は(著しく)低下すると思われます。
まぁここであまり悲観的になってもしょうがないので、仮に投資した会社の5%がEXITに成功するとしましょう。
そうなると、問題はリターン率(回収率)ですよね。
これがまた困ったことに全然わかりません。誰もいくら投資していくらになった!という情報を開示してくれません。
年収何千万円!みたいな話はよく聞きますが、エンジェル投資EXITでいくら儲けたかの話になると殆ど具体的な情報がありません。
儲けすぎてて嫉妬が怖くて開示できないのか、
金額がしょぼすぎて言いにくいのか、
わかりませんが、おおよそで検討をつけていきましょう。
起業家が資金を募集するステージは何段階かありますが、新たに発行される株式は5~20%程度でしょう。
アイデアで起業したてホヤホヤの顧客も売上もない超初期(シード)ステージでのエンジェル投資はさすがに成立しにくいです。
(ネット等でこの段階での資金募集なども見かけますが全部詐欺と思うくらいでOKです)
一般人が投資するとなると、シードステージではなくアーリーステージで規模感的には数億円の売上があり、何人か従業員もいて、何千万円かの資金を応募するといった企業のパターンが多いです。
仮に時価総額2億円の会社が、2000万円応募しており、あなたが200万円投資するならば、その会社の株式を1%保有することになります。(おおざっぱには)
何年後かに運よく、その企業が5億円で大企業に買収されたら、あなたの株は500万円となり、300万円の儲けとなります。
もし、その企業が50億円でIPO上市したら、あなたの株は5000万円となり、4800万円の儲けとなります。
この一般金額的アプローチで期待値を計算してみると、
100件×200万円投資したとして、投資金は2億円になりますが、
①M&A成功 3件 → 500万円×3件 → 1500万円
②IPO成功 2件 → 5000万円×2件 → 1億円
回収は①+②で1億1500万円です。投資金の回収率は56%。つまり宝くじ並みのギャンブルですね。
仮にIPO成功が3件だったとしても、回収率83%なのでパチンコレベルです。
つまり冷静に考えると絶対に手を出してはいけないギャンブルという結論になります。
エンジェル投資家の実態
腕を組んだ画像の男が、またもやEXITを達成!日本はもっとスタートアップのイノベーションを起こすべし!とか
オシャレな恰好の男が、クラウドファンディングで2000万円の調達達成!次世代のIT革命を起こすのは俺だ!とか
そんな記事はよく見かける気がしますが、具体的な投資回収率がなかなかわからない中で、なぜそんなにエンジェル投資を推奨し、煽るような風潮があるのでしょうか。
まずエンジェル投資で成功している人の顔ぶれを見ると、一般人とは全く違うことに気が付くはずです。
VCの中の人、天才起業家、お金持ち資産家など、その筋の人達。
既に自分が起業して事業を売却して何十~何百憶円の資産をもっている人で、自分の経験や人脈を活かして投資をしているというパターンも多いです。
サラリーマンが、適当にエンジェル投資して大成功!なんて事例は一つも聞きません。
起業家の立場にたてばわかります。
頭とセンスが良く勉強家で気鋭の起業家であれば、投資家に求めるのは端金を出してくれる普通のおじさんではなく、起業経験や投資経験が豊富で、経営のアドバイスや人脈を活用できる人物です。
そういうインサイダーのコミュニティが自然と出来上がるはずです。
そうした中でも、日本のスタートアップ業界をもっと盛り上げたい、若い起業家を増やしたいという思いから、エンジェル投資額が増えてきているのは悪いことではありません。
しかしもし私が悪い人間だとして、アベノミクスで小金を稼いだ素人投資家からお金を巻き上げる戦略を立てるとするならば、こうです。
・世の中エンジェル投資ブームであるかのように煽る
・節税面、一攫千金面、社会的意義を全面に押し出してPRする
・実際のリスクは隠す(100ページの契約書にさりげなく1文だけ書いておけばOK)
・リターンのしょぼさもバレないようにする(逆にユニコーン出現!などと煽る)
・クラウドファンディングのプラットフォームを作る
・喉から手が出るほど資金が欲しいスタートアップ企業を集める
・その企業や事業をいい感じに編集してアップして資金を募集する
・募集金の何割か手数料をもらう
実際に最近のクラウドファンディングを見ていると、ネットのPR情報だけでものすごい早さで資金調達を達成しています。
最近は一口10万円等と少額エンジェル投資も出来るようになっていますが、
奇跡が重なってEXITしたところで、せいぜい30万円~100万円程度のリターンです。
奇跡が起こったところで、アメがチョコになるだけです。
ドブに捨てるような勝率に掛けるにしてはそれでも大金だと思います。
投資家がエンジェル投資を行う動機はわからなくはないですが、一回冷静になって考えみてはいかがでしょうか。
実際に経験したクラウドファンディングの実態と、エンジェル投資の本場中の本場シリコンバレーの実態についても別途説明していきます。 続く