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株式型クラウドファンディングの実態
最近流行りの株式型クラウドファンディング。※以下(株式型)CF
少額から気軽にネットで投資出来るのでサラリーマンなんかにも人気です。
ITテクノロジーなんかを絡めた目新しいスタートアップであれば、募集開始からほんの数分で何千万円のお金が集まってしまいます。
お金はあるところにはあるというか、金儲けへの執念の速さにも驚くばかりです。
CFを勧める記事は調べるとたくさん出てきます。
否定的な記事はなぜかあまり見かけませんね?
しかし、とりあえずはみんなに『お金を大事にしましょう』と言いたいです。
『お金をドブに捨てるな』とは言いません。その資金は、投資先の企業には間違いなく役立っていますので。
(なお集まったお金は、呼び掛け人に手数料として15~20%ほどピンハネされます)
だけど前回の記事で伝えたように、現状のエンジェル投資はリスクに対するリターンがあまりにも少なすぎます。
EXIT率を5%で計算したとしても、リターン率は宝くじ程度です。
さらに株式型CFとなると、現実はもっとシビアです。
個人のエンジェル投資と違い、CFだと実際のEXIT数や金額なんかも調べることが出来ます。
例えば株式型CFで日本で取引額第1位のFUNDINNOでは、2020年11月時点で、資金調達に成功した企業は122社となっています。
そして、EXITに成功した会社は今のところ2社のみです。
1社目はM&A、2社目は一部譲渡です。当然IPOは0社。
どちらも150%(50%UP)となっています。
2社目はM&Aではないので、金額ベースでいうと売却出来たのは1000万円程度の様です。
ちなみにここは無料タクシー配送サービスで、まるでUberを思わすような超期待のスタートアップとして散々ニュースにもなった企業です。
これらの事実を好意的に受け止め、ネット上ではCFは夢がある!とかいう記事も多いです。
(なんかもらってるの?)
冷静に事実ベースで見ていきましょう。
①まず投資対象の企業は、そこそこ売上・実績もあって事業が軌道に乗り始めていて、かつスタートアップを意識した経営者がいる比較的優良な企業ばかりです。
②資金募集の土台に乗るためには厳しい財務審査があるので、投資対象の企業は、厳選された健全な企業です。
③その中で、もちろん資金調達に成功する企業もあれば、未達で失敗する企業もあります。さらに投資家の厳しい目を通過した企業が122社。
④122社の中でも期待の高い企業は、募集開始から数分で限度額まで集まるので、ネットの前で札束を握りしめ、一瞬で駆け込み投資をしなくてはいけません。デューデリジェンスのリスク調査もくそもありません。
⑤そんな精鋭122社の中で、EXITしたのが今のところ2社。
⑥現在の投資総額は約40億円
⑦EXITされた金額は約5500万円
⑧何社かは倒産(殆どの企業がゴールに道半ばの状態)
ってところです。
EXITした会社のみを上げて、1.5年で50%!年率33%!莫大なリターン!とか述べている記事もありますが、そんなことを認めるなら、宝くじは300円が1か月で1億円になるので、年率4億%⁉になってしまいます。
リターン率は当然総額で考えるので40億円の投資に対し今のところ還元は5500万円、リターン率は1.4%程度となります。※税制優遇効果等を省く
投資家が48000人ほどいるみたいなので、一人当たりで換算すると83,000円の投資に対し、1100円程度のキャッシュバックとなります。
はっきりいって、ひどすぎます。
こんなひどいギャンブルは客観的にみて絶対にやってはいけません。
その裏で、CFのプラットフォームの会社(応募呼び掛け人)は手数料で何億円かは確実に儲けています。
私がそのプラットフォーム側の経営者だとすると、一番嫌なのはCFのあまりにしょぼいリターンがみんなの知るところになり、誰も投資してくれなくなることでしょう。
必死で盛り上げていかなくてはいけません。
ちなみに個人的にはエンジェル投資は必要だし、起業家も頑張ってほしいし、CFももっと盛り上がって欲しいと思っています。
ただイチ投資家とするならば、冷静に数字を見て考察する必要もあるでしょう。
なんて、えらそうなことを言いつつ実は私もCF経由で数社にエンジェル投資しています。
(数年前にあまり考えず適当にやってしまいました…笑)
もちろん投資会社の財務諸表も見ていますし、毎月か四半期毎くらいに状況報告のメールもきます。
大体、計画より遅れていますとか、告知を手伝ってくださいとか、良いアイデアありませんか?とか、急遽資金が必要ですとか、そういうのが多いです。
もちろん、株主も傍観者ではなく、積極的に経営の手助けができるよう、周りに口コミしたり、時には追加援助したりする必要があると思います。
それにしても本当に一生懸命、東奔西走して頑張っているなぁ というのが伝わってきますので、たとえ予定通りにいっていなくてもついつい『いいねボタン』で応援したくなります。
(多くの人がそんな気持ちだと思います)
まぁ、資金がない資金がないと言っている割にはちゃっかり2000万円とかの役員報酬をもらっていますがね。
それにそこそこの軌道に乗せつつある企業だけあって、CFで集めた資金に渡す株式なんか極わずかで株の大半を経営者が握っています。
(もちろんどちらも経営者の当然の権利だと思います)
しかし投資出来る金額も、規制で少額(MAX50万円/案件とか)に決まっていますので、そもそもCFの投資家が高額のリターンを期待できるスキームになっていません。
ですので、株式型ではない通常のクラウドファンディングのように投資ではなくほぼ寄付と考えれば多少は腹落ちするのではないでしょうか。
イギリスのクラウドファンディングの実態
あまりにあんまりな株式型クラウドファンディングの実態を述べました。
確かに、日本ではまだ年数が浅いことがEXIT数が少ない理由に挙げられると思います。
CFのプラットフォーマーやエンジェル投資家が目指すところはもちろんアメリカのシリコンバレーでしょう。
エンジェル投資の市場規模が100倍以上あって、EXITの金額もバカでかいです。
しかし、シリコンバレーまで至るのは非常に大きな壁があるので、株式型CFを日本より7年ほど先行して始めたイギリスのケースを見ていきましょう。
もし、エンジェル投資やCFの説明会や懇親会などに参加すれば、イギリスの事例をPRされると思います。
ユニコーンも出現!10倍以上のリターン!などと囃し立てられます。
(ユニコーン: 1000憶円以上で上場・買収される企業)
確かにイギリスの株式型CFでは、3社ほどユニコーンが出ている様です。
EXITによりおおよそ投資金の10倍ほどになったみたいなので投資した20万円が200万円くらいのリターンになった人もいたでしょう。
ですが、いずれの会社も元々売上は何十憶円、ユーザーは何億人を抱えたりする大きな企業で、募集金も10~30憶円などと日本のCFとはまるで規模が違います。
募集からわずか数十秒で1億円以上の資金が集まったりと、ほぼ世間からIPOが確定していると思われるような企業です。
普通ならばCFではなく、VCや証券会社が投資する段階の企業が、話題性か盛り上げの為かCFで募集してみました!ってな感じです。
こういった背景からして、日本のCF環境とは大きく異なっています。
こうしたスーパースター企業とは別に、10年くらいの株式型CFの歴史の中で普通に資金調達した企業もたくさんあります。
どれくらいあるかというと約2000社(約2500億円)くらいあります。
で、その内どれくらいEXITしたかというと2016年6社、2017年9社だそうです。
2010~2020年の間で、考えると合計70社くらいはあるのでしょうか?
最大手のCrowdcube社では、2011年~2018年の770社の状況を報告しています。
それによると、EXIT30社、継続624社、廃業116社という割合です。
廃業が多いようにみえますが、普通の企業の廃業率と比べるとこれでも優秀な方です。
(英国全体では3年以内に50%廃業すると言われている)
上記のようなEXIT高確のボーナス会社を含めても、やはりEXIT率は3~4%ってところでしょう。
例のごとく、EXIT額、投資額やリターン額については非開示情報が多くなかなかわかりません。
前に参加したCFプラットフォーム企業の説明会でも、イギリスの高額EXIT例をスライドで見せていました。しかし2位の例でも3倍程度だったと記憶しています。
ですので日本とあまり変わらず、しょぼめのM&Aでせいぜい1.5倍程がありがちなパターンではないでしょうか。
イギリスでは、CFで100社×200万円(2億円)投資したとして、3~4社がEXITするかもしれません。
良くて2000万円程度が返ってくる感じではないでしょうか。
もし奇跡でその中にユニコーン3社を全て引き当てたとしても、投資金の2億円を回収することすら難しいと思われます。
アメリカに次ぐエンジェル投資先進国でもこんな程度なんですね。
でもCFプラットフォーム企業の手数料は7~10%と日本に比べ結構良心的です。
エンジェル投資の成功事例 “ツクルバ”
IPOした企業であれば、有価証券報告書で大体エンジェル投資家がどれくらい儲けたのかを細部まで読み込むとざっくりとは知ることができます。
例えばエンジェル投資IPO成功例としてよく出てくる『ツクルバ』です。
ここはリノベーションの不動産会社で時流にHITして瞬く間に巨額のIPOでEXITを成し遂げました。(初値時価総額191.3億円)
こちらの企業の有価証券報告書(111P)からざっと株価を拾っていきましょう。
まず、株式の分割が頻繁にありますので、株価の比較がしにくいです。
というわけで今の市場株価(11/20 660円)と株数に全て換算して記します。
【シード期】
①創業時 株価1円(創業者何名かが600万株を保有)
②2015年 株価67円で150万株を割当(イーストベンチャーズ他)
③同年 株価67円で6万株を取締役に割当
【シリーズA】
④2016年 株価186円で54万株を割当(グロービス4号ファンド他)
⑤同年 株価67円で約3万株を割当(従業員持株会)
【シリーズB】
⑥2018年 株価770円で19万株を割当(個人投資家4名)
【シリーズC】
⑦2018年 株価1150円で17万4000株を割当(アカツキ)
⑧2018年 株価1150円で12万9000株を割当(みらい創造、ANRI)
⑨2018年 株価1150円で17万2000株を割当(PKSHA、電通V)
【マザーズ上場】
⑩2019年 初値2050円(引受1885円)53万5000株を発行し上場
IPO時価総額: 2050円×9,331,700株 191.3億円
⑪2020年現在時価総額 660円×9,799,000株 約65億円
まず創業者は600万株の保有株を、現在の保有数からすると上場時に半分ほど手放したと考えられるので60億円、少なくとも数十億円のキャッシュを入手したでしょう。
次の注目点は②のイーストベンチャーズです。
こちらはシード期のベンチャー投資を得意としているようです。
投資条件に優秀なエンジニアを求める傾向があることから、もしかすると有名なエンジェル投資家で天才プログラマーの佐藤氏が既にいたのかもしれません。
ともかくシード期に150万株弱×67円の株を保有したとして、現在の保有は35万株になっていますので、引受価格の1885円と上場直後の2000円前後で約100万株を売却したと考えられます。
つまり1億円の投資に対し、約20億円のリターンを得たことになります。
まさにプロフェッショナルの大成功事例だと思います。
そして④に投資したVCも10億円近くの売却益を上げたと考えられます。
さらに⑥の時点で個人投資家が4名で約1.5億円を出資しています。
個人のエンジェル投資としてはかなり金額は多く、かなり遅いタイミングです。
上場への道筋がある程度見えてきたので強気のBETでしょう。
結果一人当たり約3000万円の投資が、IPOにより約7500万円ほどで売却出来たので、約4000万円の利益を得られたと思います。
※佐藤氏は後に303円のストックオプションを得ていることから、シリーズBの株価770円より以前のシード期にも多く保有していたと考えられます。まだ売却せずに22万株を保有していますので立上げ当初から今も経営に深く関わっているのだと思います。
そして上場目前のシリーズCで立て続けにVCから5億円ほど出資を受け、見事上場。
シリーズCのVCも、上場直後に売り抜いて倍近くの利益を上げたところもあれば、まだ保有しているところもあるようです。
総じてかなり駆け足での上場だったように思います。株価は公募価格と同値で初値をつけていますのでスタートアップのIPOとしては珍しいです。
つまり市場からは勢いはあるものの割高と判定されていることになります。
上場後も、初値を最高値として徐々に株価を下げて、コロナ影響でダメ押しという形のチャートです。
現在の損益計算書も貸借対照表もあまり良いとは言えません。
経常利益がかなりの赤字なだけでなく、投資CFの有形固定資産(事務所?)への投資や匿名組合への払込額が5億円を超えているのもいただけません。
さらに社債や借入金が8億円程増えており、外部環境も厳しくコロナ第3波がきています。
同社はこれからが正念場かと思います。
某パズルゲームのブームで一気に上場した某社のように上場ゴール企業に終わらないように祈っております。
同社の例では、クラウドファンディングはありませんでしたが、折角IPOを決めた企業でも未上場時代後期のシリーズに投資した企業は既に含み損となっています。
コロナ影響などはさすがに読めませんが、基本的には上場直後の熱狂時にある程度は売り抜く必要がありそうですね。
まとめ
・日本での株式型クラウドファンディングは寄付金と思え
・CF先進国のイギリスでも勝利は絶望的だと思え
・エンジェル投資で成功したら売れるときに売れ!
・やはりシード期に投資していないと大きなリターンは期待できない。