目次
シリコンバレーのカリスマ投資家
今回はエンジェル投資のメッカであるシリコンバレーの実態についてです。
前回、日本やイギリスでのエンジェル投資の惨状は説明した通りですが、シリコンバレーなら果たして大金をGETする可能性はあるのでしょうか?
エンジェル投資① ハイリスク・ローリターンの理由は - とある投資のインデックス
エンジェル投資② 株式型クラウドファンディングの実態 - とある投資のインデックス
上記にあるエンジェル投資家のバイブルともいえる著書、その名も『エンジェル投資家』から内容を引用することにします。
著者は、ジェイソン・カラカニス。
彼はセイコヤ・キャピタルのスカウトにも選ばれているカリスマ的投資家です。
セイコヤ・キャピタルとはグーグルやアップルなど名だたる企業を支援してきた世界最高峰のVC(ベンチャーキャピタル)です。
そのVCが世界最高のエンジェル投資家を集めた20人のチームをスカウトと呼んでいます。
そのチームメンバーは全員がテクノロジー企業の創業者等で数々のエンジェル投資でも実績のある本物の凄い人達です。
カラカニス本人もこの名誉をヤンキースのオーナーから次のワールドシリーズの為に力を貸してほしいとオファーが来たようなものだと例えています。
カラカニスがシリコンバレーの実情を赤裸々に語っていますので、それを参考にしていきましょう。
EXIT率 驚異の30%!?
さて、著書内では全て$ベースで書かれていますが、ここからは全て100円/$とした円ベースに変換していきます。
また著者の計算ミスなのか翻訳がおかしいのか、単位や計算ミス部分なども修正した上で記していきます。
カラカニスの6年間のエンジェル投資の成績は以下です。
投資金 10億円(約240社)
EXIT金額 150億円(内ユニコーン3社)
とんでもなく良い成績に見えますね。
ですが、満遍なくリターンを得てきたわけではありません。
カラカニスは最初期の1000万円(5件)の投資で、ユニコーンを2社引き当てています。
それがウーバーとサムタックで、カラカニス氏を有名にした要因となっています。
ウーバーは当時5億円程度のスタートアップ企業で、ほとんどの投資家が資金希望のプレゼンに見向きもしなかったといいます。
しかしカラカニスはそんなウーバーに250万円を投資。
その後ウーバーは大成功をおさめ、IPOの時には8900億円のデカコーン(ユニコーンの10倍規模)になったとされているので、カラカニスはおおよそ40~50億円を手に入れたと考えられます。
カラカニスの6年の投資期間を前後半で分けるとこんな感じになります。
■前半3年
1億円投資 → 100億円EXIT (ほぼ最初の1000万投資時に達成)
■後半3年
9億円投資 → 50億円EXIT
前半の方に目がいくかと思いますが、注目すべきは後半戦です。
最初の超ラッキーパンチで大成功しただけではなく、その後もコンスタントにエンジェル投資で結果を出し続けていることこそが凄い点です。
つまり決して運ゲーではなく、何かコツやノウハウを掴むことで生計を立てるすべがあるのではないかと思わせてくれます。
そんな彼がシリコンバレーにおけるありがちなEXITのパターンについて教えてくれます。
①まず2億円を用意します。(あるいは年収2000~3000万円)
②その内2500万円をエンジェル投資に回します。
③50万円×50件で投資します。
※最悪全て失う可能性もあるが、全資産の10%程度であれば人は耐えられるという意味で、資産は最低2億円はあったほうがいいという優しさ?です。
その結果…
35件 → 倒産
5件 → 元本分だけ返ってくる 250万円バック
7件 → 2倍になって返ってくる 700万円バック
1件 → 5倍になって返ってくる 250万円バック
1件 → 10倍になって返ってくる 500万円バック
1件 → 20倍になって返ってくる 1000万円バック
というリターンパターンは十分に現実味があるそうです。
つまり2500万円の投資に対し2700万円が返ってくる計算です。
EXIT率が30%という時点で日本やイギリスと比べてとてつもないと思いますが、5倍や10倍といったリターンも十分に期待できるそうです。
あれ、それでも全然儲けてなくない?とか思うのですが…
でも大事なのは、そうやって数々の創業者との人脈を築き、投資や起業のノウハウを学びインサイダーの中に入ることが重要な無形資産となります。
そして経営者を支援して顧問となったり、ストックオプションを付与されたり、プロレタを利用して多額の追加投資をしたりで、回収金額の上乗せをしていく感じですね。
※プロレタ: 持ち株比率を維持する権利のこと
そうこうしている内に、EXIT確定のおいしい投資話に恵まれたり、Twitter、ワッツアップ、ウーバーのような超絶ユニコーンを引き当てたりするかもしれません。
ちなみにカラカニスはTwitterの創業者とランチを共にしてTwitterの説明をされ投資を持ち掛けられましたが、簡単に断っています。
その判断は50億円を捨てることになったと後に言っていますが、何が成功するかなんて誰にもわからないもんだということです。
シリコンバレーは宇宙の中心
シリコンバレーでは、毎年20~30社のユニコーンが出現している様です。
また1年1回のペースでデカコーンも出現。(デカコーン=1兆円IPO企業)
さらに数年に一度はマイクロソフトやグーグル並みの超デカコーンも出現します。
まさにスタートアップやユニコーンの超新星が生まれ続けている聖地であり、ここでエンジェル投資をすれば勝てるかも?と思わせてくれます。
カラカニスはエンジェル投資に重要なことは何か?という問いにこう答えます。
1に立地、2に立地、3に立地である。
また本著の5章は、
『優れたエンジェル投資家になるにはシリコンバレーにいる必要がある』
というタイトルですが、その本文は2ページに渡って
イエス。
とだけ書かれています。
カラカニスはシリコンバレーは宇宙の中心だと言います。
なぜシリコンバレーがそこまで特別な場所なのでしょうか?
それは産業集積により、世界のマネー、天才頭脳、最先端テクノロジー、流行と情報、投資家と起業家、法律家、デザイナー、マーケッターなどが全て集まって相乗効果を発揮しているからです。
ネットワークエフェクトによれば、参加するメンバーの2乗に比例してネットワークの価値が高まるとされています。
シリコンバレーでは、そういったメンバーが他所の1000倍はいるそうです。
そのネットワーク効果は測りしません。シリコンバレーという名のとてつもなく巨大なスタートアップシステムと化しているのです。
つまりシリコンバレーなら勝てるかもという次元の話ではなく、シリコンバレーにいなければ話にならないということです。
ニューヨークでもロサンゼルスでもイギリスでも日本でもエンジェル投資は可能ですが、ユニコーンの出現率はシリコンバレーの1/10以下の様です。
ここまでで、エンジェル投資の真相が徐々に見えてきたと思います。
シリコンバレー以外の場所でのエンジェル投資など所詮おままごとだということです。
さて、その宇宙の中心であるシリコンバレーで世界十指に入る最高のエンジェル投資家であるカラカニス氏の成功までのストーリーと仕事ぶりを見ていきましょう。
エンジェル投資家で成功するには
まず彼は貧しい家庭の出身でスタンフォード大学にもいっていないアウトサイダーでしたが、最低限のPCがある家の白人男性として生まれたことはアメリカンドリームを果たす為にそれでも恵まれた方だと言っています。
(生まれながらの約束された富豪や飛びぬけた天才ではないということ)
子供の時からどうしたら億万長者になれるのかを日々考察し、勉強にあけくれPCを学びました。
四六時中PCで遊ぶ中、PCの仕組みを完全に把握して、マイクロソフトがやがて世界のTOP企業になることはその時に確信していました。
そしてPCの技術を生かして学費を稼いでいたそうです。
(やはり凡人とはいい難いですね…、その時にエンジェル投資を知っていれば間違いなくマイクロソフトに投資して一足先に億万長者になっていたと言います。)
テクノロジー企業の創業者のありがちなエピソードをしっかり持つカラカニス。
そんな彼でもまだ投資に数百万円をポンと出せるような資金は保有してはいません。
当初、彼はマーケティングのアドバイザーとして企業にPRの手法を教えてアドバイザー料を稼いでいました。
そんな中、アドバイス先の会社が買収され、株も所有していた彼はまとまった金額を得ることになりました。
その時にエンジェル投資家としてスタートアップ企業に積極的に携わっていこうと決心した様です。
加えて、まだネットが黎明期のなかで、ブログの作成やSEOなども極めていた彼は、ホームページ制作会社を創業し、バイアウトまで果たしています。
アドバイザー、企業の売却、歯に衣着せぬ物言いで少し有名になっていた彼のものに"おいしい話"が飛び込んできました。
ダイン社という既に数億円の利益を生み出している企業からマーケティングコンサルタントの依頼です。
既に大気圏外へ飛びぬける勢いのダイン社へのコンサル業務と多額の投資を行い、ほどなくしてダインは既定路線のようにオラクル社に買収されました。
その時にカラカニスは5000万円のキャッシュを手にしました。
徐々にシリコンバレーのインサイダーとして上り詰めるカラカニス。
そして次に起こった人生を変えるほどの奇跡が、ウーバーへの投資です。
とある夜に彼が主催した投資フォーラムで、10数人の投資家と6社の企業を招待しました。
ウーバーにはほとんどのプロ投資家は投資を見送りましたが、彼は小切手を書きました。
ちなみにその時の他の5社はもう記憶にないそうです。
ウーバーの巨額のIPOで数十億円の利益を手に入れた彼はついにミニセレブとなりました。
(その晩の投資フォーラムに参加してウーバーへの投資を見送ったプロ投資家に会うたびに、人生最大の失敗だったと愚痴を聞くはめになるそうです。)
そしてエンジェル投資家として名を馳せていったのです。
さて、そんな彼はどのようにエンジェル投資を行っているのでしょうか。
まず彼が投資する先は、100社に1社ほどと言っています。
つまり先ほど50社に投資すると簡単に言いましたが、それは5000社のスタートアップ創業者と打ち合わせをするということです。
彼は年間に約30チーム(30社)に投資すると言います。
週に20社ほどとミーティングすることが日課の様です。
週に20社だと年に約1000社、1/100の絞り込みだと投資出来るのは10社になるので、多少計算が合いませんが、1/100というのは少しオーバーか、最近の基準なのでしょう。
(最初は投資基準が甘い人でも徐々に厳しくなっているのはよくある話です)
つまり平日1日当たり4社とがっつりミーティングです。創業者側はこの日の為に気合十分ですから、どれもハードなミーティングとなります。
時間の有り余る優雅なセレブのイメージとはかけ離れたなかなかのハードワークです。
またスタートアップ事業のサービスや戦略や実績などの内容は当然として、創業者へ求めるものもかなり手厳しいです。
力関係でいくとかなりエンジェル投資家が上の立場の交渉となっています。
それでも有望な企業には一瞬でプロ投資家がその場で小切手を切ったりしますので、毎回集中力は欠かすことができません。
(数十億の資産家で事故を起こして血まみれになってもミーティングには遅刻しない人もいるそうで、そのような努力家だからこそビリオネアになるのだとカラカニスは言います。)
最終的には創業者を見て判断するそうですが、彼は成功する人間は皆ワイルドカードだと言います。
ワイルドカードとはつまり変人のことで、絶対の謎の自信を持った我が道を突き進むような人材です。
そのような人間と長い付き合いになるので、はっきりいって大変だと言います。
しかし自身の失敗が家庭を崩壊させてしまうリスクを省みないような心のない人間には投資しないという基準もあるみたいです。
また最高のスタートアップ企業だからといって成功が約束されるわけではありません。
超巨大企業に簡単に潰されることがあるからです。
どれだけ良いサービスを発明してもグーグルが少し本気を出せば簡単に上位互換のサービスを出されます。
アイデアだけではダメで、巨大資本に真似のできない要素も必要となります。
さらに青田刈り。
YOUTUBEは当初500億円から粘って2000億円でグーグルに買収されました。だけどもっと粘っていれば間違いなく5兆円の価値があったと言われています。
買収する企業は、何も"良き人"ではありません。厳しいビジネスの世界です。
どうやったら超新星の企業を潰せるか、パクれるか、それがダメなら安く買い叩けるかです。
少し資金繰りに困った場面などに現れてあっさりと安値で買い取ってしまいます。
M&Aはエンジェル投資のEXITとして目指すゴールに一つですが、カラカニスに言わすと失敗です。
つまり本来10億円儲けられるポテンシャルがあった企業だったところを、たった5000万円にされてしまったという敗北のイメージです。
最高の目利きが選びに選び抜いたスタートアップ企業。
その大半が失敗していくのが当然の業界。それこそがエンジェル投資なのです。
終わりに
さて、如何だったでしょうか。
シリコンバレーといえども、何の努力もせずエンジェル投資を成功させる難しさを感じて頂けたのではないでしょうか。
まとめるとこうです。
・シリコンバレーはエンジェル投資の聖地(他所は話にならない)
・シリコンバレーのインサイダーに上り詰める能力が必要
・吟味して吟味して吟味してトントンの勝負ができる
・飽くなき努力の末に、一攫千金の運を手に入れる資格が得られる
如何に日本のエンジェル投資に素人が手を出すことがバカらしいか、気づいてもらえると幸いです。
エンジェル投資で一発当てるよりも、素人でも出来る当ブログの投資法を学ぶ方がいいかもしれませんね(笑)